LAST LOVE -最愛の人-
「これが、ペックデッキ。大胸筋とかを鍛えるマシンね」


拓弥は、マネージャーに言われた通り、ジムの中を一通り説明していた。

芽依はワクワクと眼を輝かせながら、拓弥の説明に聞き入っている。


「これ知ってる。顔の前で腕を開いたりするやつだよね」

「そうそう。結城さん、やってみる?」

「いいの?!」

「どうぞ座って」


(女の子だし、重りはこんなもんだろ)


拓弥はマシンの重りを利用者の標準より軽めに設定した。


「背筋伸ばして。
そう、じゃあ息を吐きながら肘をゆっくりと体の内側に閉じて」

―――がちゃん。
スムーズにマシンが動く。







『すごーい!!』


芽依がそう言って、眼をきらきらさせながら、こちらを振り向く反応を予想していた。





「……向井クン」

「はい?」


予測に反して芽依は振り向かない。
声のトーンも低めだ。


「今、手加減したでしょ」

「…はい?」


一体全体なんの話だ。


「もっと『お前には無理だ!』ってくらいの重さにしてよ!」

芽依の真っ直ぐな眼が拓弥を見据えていた。
拓弥が芽依の言葉を理解するのに、一瞬間があく。



「……は?!
動かせなきゃトレーニングの意味ないだろ。
てか結城さん初めての上に女の子なんだし、そりゃあ加減くらいするよ」


「それ男女差別!
むしろ初めてなんだから
『これくらいの重さを動かせるようになりたい!』
っていう目標が私は欲しいよ」

「それって楽しい?」


呆れるように拓弥は息を吐いた。



「向井クン、違うじゃん。
楽するイコール楽しいじゃないよ。

『もっとできる、もっと上へ』
って思って自分を高めていくから人間楽しいの!」







どくん、と心臓が波打った。


拓弥の胸の奥に焼き付いた『何か』がじりじりと焦げる匂いがした。
脳裏に浮かぶ―――オレンジ色の空。




『もっとできる、もっと上へ』


『向井くん』



あの日の彼女の声が
芽依の声とシンクロする。



心の奥から、何かが動き始める音がした。
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