LAST LOVE -最愛の人-
「結城さん!」

「?どうしたの向井くん、そんなに息切らせて」


脚立に登った芽依は、洗濯物を物干し竿に並べていた。

夕暮れに、白いタオルがオレンジ色に染まって。

振り返った芽依の、セミロングの髪が太陽にきらきらと揺れる。



「一緒に帰らない?」


「うん、今終わるからちょっと待っ―――!!」


「!!」




こちらを振り返ったまま脚立から降りようと、芽依がバケツを手に取った瞬間だった。


バランスを崩した脚立が、芽依の身体と共にぐらりと揺れる。





―――がしゃん!!

間もなく脚立が床へと打ち付けられる激しい音があがった。










「っ!!」


同時に、滑り込むようにして芽依を包み込んだ拓弥の背中が床に落ちる。













「!!向井くんっ!!」


最初に得たのは『冷たい』という感触。
零れたバケツの水が辺りを濡らしている。





二つ目に得たのは芽依の肌の感触。
ひんやりとした首が、拓弥の頬に触れていた。



眼前にある白い肌に、妙にどきりとして、拓弥は思わず身体をずらした。








「……ィテテ。結城さん、大丈夫?」


涙目の芽依がこくこくと頷く。


「ごめんなさい…ほんとに、私、ごめんなさい…」


ぼんやりとした意識の中、打ち付けた肩がじんじんと痛み出す。

その痛みをどこか客観的に感じている自分がいる。


「はは…力はあるけど、バランスはまだまだみたいだね」

「向井くん……」







拓弥は肩を押さえながら起き上がると、芽依の腕を掴む。

先程と同じようにひやりとした肌の感触。





芽依に目立った外傷が無いことを確認して、拓弥は息をついた。

「大丈夫みたいだね」


「うん、うん…」







女の子は、優しくて、可愛くて、華奢で、守ってあげるもの。

それだけではない何かの衝動が、拓弥を動かしていた。








――――落ちて行く。


引力に引かれるまま。
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