『好き』を教えて
照れたような木下さんはもっと照れ臭そうに笑って、その顔が可愛く見えた。

年上の、しかもバイト先の社員さんを可愛いなんて失礼よね。

「今度はカレシに連れてきてもらえよ」

その言葉に一瞬身体を硬くした私に木下さんは『しまった!』という顔をした。

「悪い。どーも俺って…」

「いえ…。木下さんは悪くないです。私が…」

「いや、俺が…」

「私です」

押し問答しているとバカバカしくなって思わず笑ってしまった。



「…どうして私があんなとこにいたのか訊かないんですか?」

ひとしきり笑った後で、そう切り出した私を木下さんは複雑な顔で見つめた。

「そこまで鈍感じゃねーよ」

「鈍感なんて言ってませんよ」

拗ねた口調の木下さんをやっぱり可愛いと思ってしまう。

「人の恋愛事に口を出すほど俺は偉くない」

「……偉くなくてもいいですから…私の愚痴に付き合ってもらっていいですか?」

「……半分ぐらいは俺のせいだろーし…仕方ねーな…」

木下さんは憮然として車に乗った。
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