『好き』を教えて
「悪いけどトイレ貸して」

普通は怪訝な顔をすると思うが、この時の高野は明らかにホッとしていた。

部屋に何か……。

「どうぞ」

思考がまとまりそうだったのが高野の声で霧散した。

別にトイレなんて行きたい訳じゃない。

とりあえず高野を部屋まで送ったらそのまま退散しよう。

そう思って高野の後に付いて行った。





部屋のドアノブをおもむろに掴んだ高野は鍵を使う事なく回した。

え?

妙な違和感を感じて、ドアを開こうとする高野の手を止めた。

「木下さん?」

「どうして鍵がかかってない?お前、一人暮らしだろ?」

困ったように俺を見上げる高野はそれでも口を開かなかった。

「中に誰かいるのか?」

「…わかりません」

俺の問いに意味不明の返事をする。

「お前、何言ってんの?無用心にも程があるだろ」

俯く高野に、高野が不安そうだった理由に思い当たった。

中にカレシがいる…?



俺は高野を押し退けてドアを開いた。

「木下さん!?」

高野に構わず室内に入ると乱雑…と言うか、台風が通ったのかと思うような有様が目の前に広がっていた。
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