『好き』を教えて
高野の顔が一瞬緊張して、すぐに弛んだ。

嬉しそうに男を見上げて笑っている。

あんな顔、俺は初めて見た。

まぁ、何かしら文句を言ってる俺にあんな顔は見せねーよな。

男は肩を軽く叩くと離れていき、その後ろ姿を高野は未練たらしく見送っていた。

ようやく仕事に戻った高野はさっきの表情とはうらはらにいつもの顔で黙々と作業する。

あの男…高野のカレシか?
それとも友達?

まぁ、どっちだろーと俺には関係ない。
仕事に支障のない範囲なら構いやしない。


少しは自分のするべき事を飲み込んできたのか、高野は俺を頼らずにこまめに動いていた。










「今日はこっち教えるから」

何とか書店コーナーの仕事を覚えた高野に今日はレンタルの方を教えるべく説明を始める。

俺の後をトコトコと付いて回って真剣に聞いている高野に、ふと先日の事を思い出して何となく訊ねてみた。

「高野ってカレシいてんの?」

「え…?」

仕事とは全く無関係の問いに付いてこれないようだ。
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