『好き』を教えて
「い、いや、なかったらもういい」

「申し訳ございません。今後入荷しましたらご連絡さしあげましょうか?」

「いやっ、そこまでは…」

俺が入ってきたのを見たおっさんは逃げるように出て行った。

「あ…。すいません。今のお客様、怒ってないでしょうか?」

心配げに揺れる暖簾を見ながら訊ねる高野に俺は笑うしかなかった。

「お前、すげーな」

「え?」

「いや…。怒ってないと思うぞ」

俺の言葉に高野は珍しく笑みを浮かべた。

「今度あの客が来たら俺を呼べよ?」

どうして?と不思議そうな顔をする高野に、どうも説明しにくい。

「あー…、あの客はちょっと問題あるんだ…」

「そうなんですか…。わかりました」

俺にペコッと頭を下げて暖簾の向こうに消えて行った。

何だかなー…。

鈍臭いけど真面目だし、みんなが避けて通るおっさんにもちゃんと応対出来る。

案外拾い物だったんじゃね?

最初はどーしてあんなのを雇ったのかと思ったけど、店長の見る目は確かだったってか。

まだまだ店長には適わないなと苦笑いしつつ暖簾の外に出た。
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