『好き』を教えて
「え…!そんな、悪いです。一人で帰れますから!」

急いで店を出ようとする高野の腕を掴んで引き止める。

「こんな深夜に女一人帰せる訳ねーだろ」

「でも…」

躊躇う高野を強制的に事務所に放り込む。

「そこで座ってろ。すぐ済むから」

「……すいません…」

諦めたのか、おとなしく椅子に腰かけて所在なげに視線を巡らせている。

「何を忘れたんだ?」

書類を束ねつつ訊くとポケットから出したものを俺に見せた。

「携帯です…」

「…必需品だな」

やっぱり鈍臭い…と思いつつ椅子から立ち上がる。

「じゃ、帰るか」

「はい…」

俺の後ろを俯き加減で付いてくる。



「乗って」

小さく頷き、俺の隣に乗り込んだ高野からふわっといい香りが流れてきて、思わず息を飲んだ。

香水のような人工的でない、風呂上がりっぽい自然な香りが男臭い車内に広がったような気がした。

俺って動揺してないか?

そんな俺に気づいた様子もなく、ただ前方を見つめている高野の横顔がすれ違う車のライトで白く浮かび上がるのが妙にキレイだと思った。
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