メガネの裏はひとりじめⅠ
じっと怪訝な目を向ければ、王子様は口を覆っていた手のひらをそこから離して。
離れた手は――…ちょ、ちょっと待ってっ。あたしの赤味が引いた頬っぺたへとゆっくり伸びてくるではないか。
思った通りそっと優しく頬っぺたに手を添えられたなら、
「…誘惑してんなっつの。」
そう、タメ息と同じようにやっぱり呆れを孕んだ意味が読み取れないセリフを王子様は吐き出す。
『なに、(…って…!)』
ぎゃあ…!!
あと一文字。"が"を言うだけだったのに。
それよりも先に王子様は自分の秀麗な顔を傾けて徐々にあたしへと近づけてきた。
近づけて、あたしと王子様の離れていた距離は縮まり、頬っぺたに触れられていることとセリフの意味を理解するのと。
その二つで気を取られていたあたしは、王子様のその行動に反応するのが遅すぎたのだ。
つい先ほど。元カレとなってしまった三木でもう頭にインプットされているこの行動の意味。
それに気がついてはっとしたあたしは、頬っぺたに手を添えられ顔を背けることができないから、迫り来る不安や羞恥にギュッと固く目を瞑った――…その、直後。
――キーンコーンカーンコーン。