メガネの裏はひとりじめⅠ



じとっと見つめてやると、道留君は口元から手を離し、きゅっと瞳を細めてあたしの心臓を鷲掴むふんわりとした笑み。



楽しそうに喉を鳴らしながら笑っていたのに。変わって見せられたこの笑みに何の疑いを持たずぽっと赤くなるあたし。



やっぱり、カッコいい、としか言葉が出なくて。



綺麗な魚群トンネルのことも。道留君が笑っていたことも。今の道留君に気を持っていかれているあたしには目がない。



ふんわりと笑ったかと思うと、それもすぐに終わり。



あたしが"え"と声を漏らす前に道留君は手を繋いだまま、その縦に大きい身体を近づけてきて。



「可鈴見てみて。」



振り返っていた顔の前には道留君の胸。



服を着ているのに、それでも道留君と超至近距離だということを意識させるのには十分な要素だ。



『どどどどれっ!?』



意識のし過ぎ。水槽の方へ戻した顔はりんご色。どもりすぎて"ど"を何回も繰り返す恥ずかしい奴。もといあたし。



そんな、あたしを。外では「あの魚。」とかって普通に言ってスルーしてくれてるけど。



多分。心の中ではクスクスと可笑しそうに笑っているんだと思う。


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