メガネの裏はひとりじめⅠ
人間、嘘つきばっかだから。
そう付け足した道留君に、顔を包んでいた片一方の手でまっすぐに切り揃えられた前髪をさらりと避けられる。
と。
そっと瞼を伏せた道留君は露になったおでこに唇を押し当てた。チュッと小さなリップ音が鳴った。
『―…っ!!みち、みち、みち、』
「ウブだねぇ。」
クツクツと喉を鳴らす道留君には恥ずかしさとかそういうのはほんとにないのだろうか。
ここは水族館。公共の場。いくら周りの人の瞳を奪う魚群トンネルの助けがあるからって、見られたかもしれない。
そう考えたらキスされたことに足してもっともっとあたしは羞恥を覚えるのに道留君は笑う。
その表情に、怒る気力は全部吸い取られてしまう。かっこいいって特だ。
顔に未だ触れるもう片一方の手も離れ、そのままさりげない動作でキュッと左手と右手の指をまた絡ませた道留君。
「ま、俺も結構な嘘つきだけどね。」
ほんとだよぉ…。魚に似てるって嘘は傷ついたんだから。
ていうか、あたしがえ、エッチなこと考えてるって思ったことは嘘じゃないの…?
そこは真実が分からなくて、でも聞けなくて。真っ赤な顔であたしは俯いた。