メガネの裏はひとりじめⅠ
上げた、瞬間。
左の頬っぺたに道留君の左手がそっと触れて。すっと人差し指で瞳に溜まる涙を拭ってくれた。
「やりにくー。」って、苦笑する道留君は右利き?利き手を知れて、そんな些細なことなのに嬉しくなる。
涙を拭ったら、「バカだな。」優しい口調に笑みが降ってきた。
「そんなこと別に言わなくていーの。そういう嘘は黙ってたら分かんないんだから。」
『…でも、』
「ていうか可鈴、嘘とかつけないタイプでしょ?単純だから。」
『…ひどっ、』
「ふはっ。じょーだんっ。…ん。俺もごめんね?」
柔らかい、けど。少し眉を下げて申し訳なさそうな表情をする道留君にフルフルとかぶりを振る。
振って、そしたら道留君は嬉しそうににっこりと笑って、「じゃ、そろそろ他んとこ行こっか。」こくんと頷けば歩き出した足。
『(…やっぱちょっと、照れちゃうよ…。)』
駅から道留君と手を繋いで、さっきまで少しの間離れていたけどまた繋がって。慣れ、というものが一向に訪れないあたし。
ちらり、繋がれている手を盗み見てぽっと恥ずかしがっているあたしには慣れもなにもないだろうけど。