メガネの裏はひとりじめⅠ



と。

不意に鼓膜を擽ったバリトン。右にまだちょっとにやつく顔を向ければ、スプーンを持ってオムライスをぱくぱく食べる道留君。



『…、』



道留君はオムライスがほんとに好きなのか、食べる姿は子供みたい。表情が嬉々としている。



だけど待って。道留君、もしかしてこのまま食べ続ける気…?



このまま、というのは、あたしの隣に座ったまま、という意味だ。



最初は向かい合う形で座って、でも道留君が移動したから今の体勢になって。でも料理が運ばれてきたから元に戻ると思ったのに――…。



『(これじゃあドキドキして食べれないよぉ…。)』



騒ぐ心臓。もきゅもきゅと嬉しそうに口を動かしている道留君に聞いてみた。



『…み、道留君…?』

「?」

『あの、席、戻らないの…?』



聞いたらもきゅもきゅしながらあたしを不思議そうに見つめてくる道留君。



絶対何で?って思ってる。この表情は思ってるに違いない。



暫くもきゅもきゅして。ゴクンと呑み込んだのか喉仏が動くと、ぱちぱちと瞬きして「何で?」って。やっぱりぃいいい。



予想は当たった。


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