メガネの裏はひとりじめⅠ
[また、明日ね?]
繋いでいた手はほどけてそっと頬っぺたを包み込む。家から零れる明かりを背後にふわっと微笑んだ道留君のそれは悩殺もの。
ふて腐れていた顔は夜空の下でもはっきりと分かるぐらい真っ赤に染まって。
たったそれだけでこんなにも変わってしまうんだから、今まで拗ねていた時間は一瞬で無駄になる。
[(…バカ。あたし。)]
ほんとに、そうだ。
わがまま言って拗ねたりしなかったら笑って喋りながら帰れて締め括りも最高。失敗したところも少しは補えたかもしれない。
なのに。
[(バーカ…。)]
自分のした失敗に今さら気づいて泣く。今日何回目だこれ。あーもう。面倒くさい女にはなりたくないって言ったの誰だバカ可鈴ー。
なんて。思いながらもうるうると瞳を濡らすあたしを見て、道留君はクスッと小さく笑う。
と。
可鈴。優しい音で名前を紡がれたあたしは救いようのないおバカ。漆黒を見てしまって。
しまった、と思った時にはすっと頬っぺたに添えていた片手で髪を梳かれ、秀麗な顔はゆっくりと落ちてきていてすでに手遅れ。
うっと喉が詰まる感覚。やばいやばいやばい。――…キス、される。
[っ、]
気づけば怖さから目をギュッと瞑っていた。