メガネの裏はひとりじめⅠ
フラれたら諦めるとか思っても結局。そうなったらどうしようって怖がっているあたしがいる。
動かない足がその証拠で。
ぽつんと広い廊下に立ちながら俯いて、度胸がいつまでも据わらないあたし。
無意識に力の入った手に握られたプリントはくしゃり。音を鳴らす。グッと噛みしめる唇が痛い。
"どうすんの可鈴!"
"いい加減覚悟決めなよ。"
心の中のあたしが訴えてくる。
"後悔するよ。"
…あぁうん。そうだよ、ね。ぐずぐずぐずぐず。悩むようなことじゃない。
フラれても仕方がないって思っているなら覚悟を決めて。度胸も持って。もうこの際当たって砕けろ、だ。
"後悔"って言葉がずっしり胸にきた。そんなの絶対したくない!
あたし、決めた。
俯けていた顔を上げてきゅっと上靴を鳴らして踵を返す。
と。
「どこ行くの?可鈴。」
振り向いた刹那。鼓膜を擽る柔らかいバリトン。ぱふっとぶつかった硬い何かから香るのは柑橘系の爽やかな匂い。背中に回る男の子の腕。
『(道留、君。)』