メガネの裏はひとりじめⅠ
『王子様と出会っちゃったの…』
「……は?」
あぅ…。
開いてそう言えば、悲しくもイブから返ってきた言葉はたったその一言だけで。
しかもその表情は笑顔とか呆れた表情とか。そんな感情は全く表されていない真顔なわけで。
あたしはもう一度繰り返すように『王子様と出会っちゃったの』真顔であたしを見つめてくるイブに言うと、イブはパチクリと一つ瞬き。
そして真顔のまま「熱あんの?」なーんて、あたしのおでこに手を伸ばして熱があるのかどうか確かめてこようとする。
『平熱だからだいじょーぶっ!』
その手をパシッと払い除け、授業中だということを忘れていつもと同じ声音で声を上げたあたしがみんなから一斉に向けられた鋭い視線に気付くはずがなくて。
あたしに払い除けられた手を「痛いなぁ…」呟いて甲斐甲斐しく擦るイブにほんの数分前、王子様と出会い起こった出来事を話すために言葉を紡いだ、その瞬間。
「――…遅れてしまってすみません」
ガラ…ッと教室のドアが開く音があたしの鼓膜を擽り、その音に続くようにして女の子からじゃまず有り得ない男の子特有の低い声がそう言った。
…あたし以外に遅刻した人いたんだ。
そう思い、声がしたドアの方へイブから瞳をどれどれと移動させてみれば、あたしと同じで遅刻してリュウちゃんに何か言われていたのは思いもしない人物。
このクラスでは少し浮いている黒縁メガネを掛けた宮軒道留(クノキ ミチル)君だったんだ。