メガネの裏はひとりじめⅠ
へぇー道留君でも遅刻することってあるんだぁ。
リュウちゃんに謝って自分の席へと歩いている道留君を見てあたしは素直にそう思う。
ていうか、あたしだけじゃなくてリュウちゃんやクラスのみんなだって歩く道留君に瞳を向けているのを見るからにしてそう思ってると思う。
それも、そのはず。
だって道留君は見た目も中身も少しヤンチャな人達が集まったこのクラスの中で一番真面目な男の子なんだから。
一度も染めたことがないであろう少し長めの漆黒の髪はワックスなど付けたりはせず、多分寝起きのままで時々寝癖がピョコン、と可愛く付いている。
目に掛かるぐらいの前髪はいつ見ても邪魔そうで、それに黒縁メガネを掛けていてメガネを外したところは誰も見たことがない。
だから素顔はどんな顔なのか入学してから5ヶ月経った今でも謎。
それと堅苦しく一番上のボタンまできっちりと留められたワイシャツに、キリッと少しも緩むことなく締められた学校指定の青チェックのネクタイ。
スラックスは腰パンなんかじゃなくて普通の一般的な穿き方をしていて、テストは常に首位。
授業中は誰よりも真面目にセンセーの話を聞いており、遅刻なんて見たの今日が初めて。
あたしが知っている限り普段はチャイムが鳴る前から席に着いて授業の用意をしているのだ。
そんなどっからどう見てもちょっと今時珍しい真面目で優等生な道留君は、みんなから"ダサ男"だなんて呼ばれている。
誰も、道留君を名前で呼ばないんだ。