メガネの裏はひとりじめⅠ
「可鈴、怒ってる…?」
そんな拗ねるあたしにすかさず声掛けてきたのは、紛れもないさっきまであたしに意地悪していた道留君。
あたしは立てた両膝におでこをくっ付けながら『オコッテル』呟くように言葉を返す。
その途端、ふわりと道留君からする甘い香りに包まれ、背中には暖かい温もりを感じ、また抱き締められる…!そう思ったあたしが咄嗟に膝から顔を上げると。
それを狙ってか道留君の腕がスルリとお腹に回ってきて結局は抱き締められてしまった。
あぁ…、あたしのバカ…っ!
『み、みち…、』
「…謝るから、怒んないで?」
『…っ!』
これは、秒殺。犯罪モンだ。
後ろからあたしを抱き締めてあたしの肩から顔を覗かせている道留君の方に顔を向けると、道留君は目に掛かる漆黒の前髪の隙間から上目遣いであたしを見つめていた。
しかも、だ。
上目遣いだけでも犯罪ものだというのに道留君は漆黒を子犬みたいにうるうると潤ませていて。
おまけに甘えるようなやんわりとした口調で"ごめんね"と謝ってくる。
こんな綺麗な顔に。上目遣いでこんな可愛く謝られたりしたら"許さない"なんて言う人間はこの世界で存在するのだろうか。
存在するんだったら見てみたいもので。
怒ってる、というより拗ねているの方がしっくり合うあたしの今の心情はなんかもうどうでもよくなり。
あっさりと許してしまっても構わないのだが、だけど引っ掛かることがいくつかあるので許す代わりにそれを答えてもらおうと、あたしは口を開いた。