ただ あなただけ・・・
「いやぁ本当良かった〜。まさに間一髪だったな!」
あれから会計を済ませ、別の店に行った。満面の笑みでビールを飲んでいる亮治を、涼子は白い目で見ている。
「何が良かったよ・・・・ねぇ、本当に妃奈は大丈夫なの?」
「んぁ?大丈夫だって!何てったって、俺の連れだぜ??」
(それが心配なんだってば・・・)
今ここに妹はいない。先程の店で別れてきた。妃奈を助けたのは、待ちわびた『彼』だった。
その彼が妃奈を連れて、夜の街へ消えて行った。
もちろん涼子は止めようとしたが、できなかった。彼の瞳を見たら言葉が出なかった。
―――怖かった―――
何か従わなければいけない、という気がした。妃奈は大丈夫だろうか、不安な気持ちで頭が一杯だ。
「涼子、心配すんなって。五十嵐は悪い奴じゃない。俺が保証する。ただ、不器用なだけだ」
こんなに真剣な顔で話しをしている亮治を久しぶり見た。それだけ彼を信用しているのが分かった。
涼子はふっと微笑み、亮治を見つめた。
「・・・そうね。私が心配しても仕方ないわね。あの子もいい大人なんだから」
亮治は涼子の頭を撫で、二人で乾杯した。