ただ あなただけ・・・
あたたかい・・・気づけば、男の腕の中にいた。細身なのに胸板はたくましく、がっしりとしている。
――聡志はもっと---・・・何を言ってるんだろう。これじゃあ、未練たらたらじゃない・・・――
「・・・何を考えている?男の事か?」
「なっ・・・?!」
思わず顔を上げてしまった。男の顔がやけに近い。あと数センチでキスができる距離だ。
顔をそむけようとしたが、男の腕が頭を包み、動かせない。
「俺がお前の浮気相手になる」
まっすぐに見つめられる。力強いその瞳で。
「・・・うわ・・・き?貴方は、私の何を知ってるの?」
「自分で言っていた。篠野達と別れたあと、ここのホテルのバーで。散々男の話を聞かされた。別れを告げたが、『別れない』と言われたこと。他にもいろいろ」
バー?お酒を飲んだ覚えは・・・ある気がする。胸のもやもやもあまりない。
見ず知らずの人に一体何を・・・
恥ずかしいやら、気まずいやらで顔が熱い。きっと赤くなっているだろう。
「――で?返事は?」
「・・ちょっと待って下さいっ!どうして・・・貴方が浮気相手なんですか?それに――名前も知らない私を」
「若葉 妃奈。知らないのはお前だろ?俺は五十嵐。五十嵐 隼人」
――そんな目で私を見ないで。逆らえない・・・もう・・どうでもいい――