ただ あなただけ・・・
玄関を出ると、一台の黒い車が止まっていた。ドアマンが五十嵐に鍵を渡している。
「妃奈、おいで」
なかなか来ない私を五十嵐は呼び、助手席のドアを開けて待っている。
車の中に入ると、五十嵐の香水の香りだろうか、ふわりと匂いがした。
――あ・・・この香り・・・――
何故だろう?すごく落ち着く。初めて抱きしめられた時も安心した。
ぼーっとしていると、いつの間に車に乗ったのか、五十嵐はシートベルトを締めていた。
私も慌てて締め、車は発進した。