ただ あなただけ・・・

「・・さと――」


「五十嵐です。今日は無理を言って、妃奈に付き合ってもらっただけですよ」


私の声を遮り、隼人さんが言った。彼は至って冷静だった。


『浮気相手』と言えば簡単なのだが、この状況ではさすがに言えない。


聡志の表情が険しくなったと思ったら、突然私の腕を掴み、半ば強引に路地裏に連れて行かれた。

「・・・っ?!聡志・・・!痛いっ・・・」


こんな私の声にお構い無しに、聡志はどんどん進んで行く。


だいぶ先ほどの場所から離れた所で、聡志は手を離した。


「―――急に・・・どうしたの・・・?隼人さん達が心配す―――」


「・・・妃奈は俺のだ。誰にも渡さない」


再び引き寄せられ、顔が近づく。顔をそむけると右手で顎を持ち上げられる。


「・・・なんで・・・?聡志は私の事・・・ん・・・」


唇が触れる。あの時とは違う、今までの優しいキス。
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