揺れる
　いつかあなたは、悲しみに包まれた笑顔を浮かべて私に言った。




「どうしていつも優しくしてくれるの？」




　鈍いにも程があるとため息を吐きそうになったが、喉に力を入れてどうにかそのため息を外に逃がしはしなかった。



　あなたに恋をしているから。



　そんな陳腐な言葉も一緒に飲み込んだ。



　飲み込んで、私は何も言えずに、ただ笑顔を作って見せた。



　水溜まりに映る私の笑顔は、表に出した表情とは裏腹に悲しみに濡れていた。


　そんな自分の姿に耐え切れずに、私はその傘を預けてあなたに降り注ぐ雨を受けた。



　冷たくて、私の体は凍えてしまいそうになって、情けなく嗚咽を漏らしてしまった。



　あなたは雨音に耳を奪われて、情けない私のその声を聞いてはいなかった。



　私が預けた傘の中に小さく縮こまって、怯えたように体を震わせ耳を塞いでいた。
< 8 / 37 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop