結婚事情
アユミの痛いほどの優しさが、今は辛かった。

これから、アユミが思いを寄せていたタツヤと会おうとしてる私。

嫌な女はどっち?

気分が重たいまま、エレベータの1階を押した。

1階の玄関ロビーには、金曜日とだけあって、社内の人たちの待ち合わせでごったがえしていた。

なるべく人目につかないように、少しうつむきながら、タツヤの姿を探す。

そのとき、ふいに私は肩をつかまれた。

振り返ると、タツヤが笑って立っていた。

少し日に焼けた頬がいつもより少しだけ男っぽく感じられる。

「ねーさん、何こそこそやってんの。」

タツヤはそう言うと、さりげなく玄関の方を指さして、私を促した。

それはとてもスマートなやり方で、誰が見たって、たまたま玄関先で出会ってそのまま一緒に帰っていった風だった。

ひょっとしたら。

タツヤはそういう状況になれているのかもしれない。

会社を出るとほんのり紫がかった空に一つ、二つ、小さな星が瞬いていた。

たくさんのサラリーマン達が、信号を渡っていく。

雑踏。

その中の二人が、私とタツヤだった。
< 119 / 215 >

この作品をシェア

pagetop