結婚事情
タツヤも腕時計に目をやった。

「ほんとだ。俺もまずいや。」

私はあわてて、身支度を調え始めた。

「ねーさんって、自宅だっけ?」

「うん。」

「じゃ、お泊まりは無理だな。」

へ?

な、何言ってるの?!

タツヤの冷静な顔つきと口調が、逆に私をひどく意識させた。

今まで、タツヤに意識したことがない『男』の匂い。

気づいたら私の動きは静止していた。

タツヤはそれに気づいて、少しだけ笑った。
 
「はは、冗談だって。ねーさん、そんな真顔で止まらないでよ。」

ふぅ。

そりゃ、冗談だってわかってるけどさ。

そういうこと言われたら、焦るって。

女性なら誰でも!・・・・?!

「終電って何分?」

「えっと、うわ、あと5分しかない。やばいな。」

急に現実に引き戻される。

「タクシーで家まで送っていくよ。今日つきあわせたの俺だし、責任ある。」

「え、悪いって。それだったら、私一人でタクシー乗れるし。後輩に送らせるのも悪いわ。」

「こういう時は先輩も後輩もないって。女性を男性が送るのは当たり前っしょ。」

あまりに、格好のいいこと言うもんだから、また静止してしまった。

「ねーさん、さっきから目を丸くして俺のことみるのやめてくれる?笑っちゃう。」

「あ、ごめんごめん。ちょっと意外な発言続いたもんだからさ。」

心臓がどきどきしていた。
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