結婚事情
「だから・・・自分でもどうすればいいかよくわからないの。」

「正直に言うわね。」

「うん。」

「タツヤさんはやめておきな。」

ミユ?

あなたまでタツヤを否定する?

「それから・・・ナオさん。」

「ナオ・・・?」

「そんな気持ちで結婚なんか無理よ。」

「え・・・。」

「結婚って、そんな生やさしいもんじゃない。ハルナは結婚を夢見る夢子ちゃん。」

ひどい・・・。

私だって、こんなに真剣に悩んでるのに。

「家庭を持つって、大変なことよ。生活していかなきゃなんないの。二人で恋人ごっごは結婚したらもう終わり。相手を信頼し、信頼してもらい、色んな問題に立ち向かっていかなくちゃなんないのよ。子どもができて、一緒に育てて、時には一緒に悩んで、けんかして、それでも一緒に生きていかなくちゃなんないの。戦場だわ。」

「戦場?でも、ミユのおうちではそんな雰囲気全くしないよ。いつも笑顔があふれてて、旦那さまとも仲良しで、楽しい家庭じゃない。」

ミユは軽く笑った。

「ハルナに見えてるのは氷山の一角。その笑顔を作るのに、どれだけの苦労してると思う?運命の相手とですら、それは容易なことではないのよ。子育てだって、毎日毎日同じことの繰り返し。だけど、私は子どもを守らなくちゃならない。自分のことは全て後回し。何よりも子どもや旦那さんや生活を重視して生きてるのよ。時には泣きたくなるほど、苦しいし、子どもに当たってしまうこともあるけど、だけど、踏ん張らないといけないの。」

ミユからこんな話を聞くのは初めてだった。

ミユの頬は興奮のせいか少し紅潮していた。

「私はハルナには幸せになってもらいたい。だからこそ、しっかり今を見つめて、大事なことから目をそらさずに決めてもらいたいの。そんな気持ちで、ナオさんと結婚してもいい家庭なんて築けない。いくらナオさんが愛してくれても、一人だけの力ではどうしようもないのよ。それはハルナも薄々気付いてるはず。」

ナオの愛。

それだけでは成り立たないことは、私も、そしておそらくナオも気付いていた。

きっとナオにとって、今日、両親に会わせることが最後の切り札になることも。
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