結婚事情
「ここで話すのもなんだから、駅前の喫茶店にでも行く?」

タツヤは駅の方を指さして言った。

「ううん。ここでいい。」

私は首を横にふった。

「ここ?」

タツヤは驚いた顔をして、地面を指さした。


なんとなく、喫茶店みたいな閉塞感のある場所で話すより、外の風を感じながら、二人きりで話したかった。

その方が、周りを気にしないで、お互い話せるような気がしたから。

タツヤは、私の横に少し距離を置いて座った。


その少しの距離が切なかった。


「その後、どう?毎日なにしてるの?」

タツヤはふいに表情に陰を落とした。

「ああ、一応職探ししてる。なかなかなんだけどね。」

「じゃ、まだ決まってないんだ。」

「そう。やっぱ難しいわ。この年齢でキャリアもそんなにない状態での再就職ってのは。」

「今までみたく営業路線で探してるの?」

「ん、とりあえずは。俺、営業って仕事はやっぱ好きだったからさ。」

そっか・・・。

本当は、公務員とかは?営業以外の仕事もやってみるのもおもしろいかもよ、なんて言いたかったけど、タツヤのこけた頬を見たら何も言えなかった。

「そんなことより、ねーさんは、その後元気?」

「まあね。」

「彼氏さんほったらかして、こんなところに来てていいの?」

タツヤは私から顔を背けて言った。




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