結婚事情
今まで足を踏み入れたことがないような高級感に思わず息を呑む。

「うわ、すご・・・いですね。ドキドキしてきた。」

自分でも何にドキドキしてんのかわからなくなってる。

水口さんは優しい笑顔をたたえたまま、

「入りましょうか。」

といって、扉をひき、私に入るように促した。

ゆっくりと扉の敷居をまたぐ。

ふんわりと品のいい出汁の香りが店内に漂っていた。

そのまま、店内の奥の方のお座敷に案内される。

テーブルの下は掘りごたつになっていて、座るととても落ち着いた。

水口さんもゆっくりと私の前に腰を下ろした。

水口さんの顔が私の正面にある。

きゃー!

どうしよう。

恥ずかしすぎるよね。

だって、正面なんだもん。

逃げ場がないって感じ。

すっかり落ち着きがなくなって、テーブルの上にある灰皿をさわってみたり、座布団の端をつまんでみたり、お品書きをめくってみたりした。

とてもじゃないけど、顔を上げられない。

そんな私の様子をうかがっていた水口さんが、くすっと笑った。

「落ち着きませんか?」
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