結婚事情
思わず硬直してしまった私の手を、ナオはそっとにぎった。

うわっ。

初めての接触!

にぎられた手の感覚がどんどん麻痺していく感じ。

あったかいナオの手に包まれて、それだけで脳にアルコールが注入されているようなふわふわした感覚だった。

「そろそろ映画の時間だから出る?」

ナオは私の手をにぎったまま、自分の腕時計に目をやった。

「あ、うん。」

慌てて、答える。

そして、私たちは手をつないだまま、お店を出た。


なんていうか、ものすごくスムーズな手の取り方。

わざとらしくなく、とても自然に手をつないでいる自分がいた。

さすが、ナオ。

だけど、私にはちょっぴり背伸びした感じだった。


一緒に観た映画。

隣にいるナオの息づかいが気になって、ほとんどストーリーに集中できず。

なんだか初めてデートした高校時代に戻っちゃったみたい。

ナオは私みたいに緊張してるんだろうか?

大人はこんなことでいちいち緊張しない?

薄暗い映画館の中で、時折ナオの横顔を盗み見た。

ナオはいつもの落ち着いた表情で映画を見つめている。

その視線の先には、私の存在を意識しているのかしら。

私は意識しすぎて疲れちゃったよ。

ナオにわからないように、静かに深呼吸した。
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