この美しき世界で
「ナツ――――!」


セロが叫んだのとほぼ同時。今度は彼を強い衝撃が捉える。


「が…ふ…?」


ミシミシと音をたて、自らの腹にねじこまれた魔族の腕。体が宙に浮き上がる。


「かなり加減をしましたから。死にはしないでしょう。」


激しい嘔吐感と痛み。肋骨の数本を持っていかれた。地に崩れ落ちるセロ。


「さぁ私を楽しませてくれた黒い戦士様。意識、失っちゃあ駄目ですよ。」


優しい。本当に優しく。まるで子供のように、母親のように魔族は微笑んだ。


「焼き付けてください。その瞳に。その耳に。体に。記憶に。」


魔族は大きく手を掲げる。その体から溢れだすは魔力。強大にして膨大な魔力のオーラ。


「我が名は魔人ゲルニカ。聴きなさい。悲鳴の歌声を。」


白い戦士達は呆然と立ち尽くしたままだった。一瞬にして二人を無力化したゲルニカ。


怒りが爆発したのはそれからすぐのことだった。


「セロっ!セロを助けろ!」

「この野郎!俺達が相手だ!」


敵わぬのは理解していた。セロもナツも自分達よりも数段優れた戦士。


それでも白い戦士達に退却という選択肢は存在しなかった。


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