この美しき世界で
正直、生きているとは思っていなかった。


魔人の一撃を喰らい、吹き飛ばされたナツ。首がへし折れていてもおかしくはない。


彼はそれでも生きていた。炎に包まれた故郷を前に呆然としていた俺の肩にそっと手を乗せたのもこいつだ。


瓦礫の破片で切り裂いたか、体中ボロボロ。額についた真一文字の傷から大量の血液を流し。


「おい。絶対に目をそらすなよ。」


そう呟いて涙を流した。


思えば今俺が生きていることも、ギルドにいることも、彼が要因なのは間違いないだろう。


ある意味では感謝するべき存在であろう。


ナツは言った。復讐しようと。その為にまず自分達を鍛えようとも。


ギルドにいれば自然と実戦の勘は掴めたし戦闘技術も高まるのがわかった。


単独、もしくはペアで動き危険度の高い仕事を選び依頼を受けた。


なにより、自分を痛めつけることで全てを忘れることが出来た。


闘争の中でのみ生きている感覚が得られた。


それでも、復讐するという気力は幾らたっても湧いて来なかった。


奴に勝てる気がしなかったから。魔人に、圧倒的な力に。


心が完全に彼に屈してしまっていた。


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