この美しき世界で
━駄目。まだ足りない。まだまだ魔力がいる。


「ふー…。」


息を吐き出し呼吸を整える。赤い塊を練り上げ、より魔力の純度を高めていく。


詠唱に時間がかかるのはそれだけ高度な魔法を放つ為なのだが。


それを無詠唱で扱える程彼女は魔導士として上級ではなく、まだ余りに若すぎた。


━まだ。まだ。まだ足りない!


些か時間がかかりすぎた。メイジの手元の紫の塊は今にも己を貫かんと唸り轟く。


「おやおや魔力で負けたことないんじゃなかったかねぇ。詠唱に随分時間がかかるんだねぇ。」


片手を前に突き出し紫の塊がそこに浮き上がる。相手はメイジ。間違いなく中級以上の魔法を放ってくるだろう。


対する自分の魔力はまだ達していない。このメイジを打ち滅ぼすほどの魔力にまだ届かない。


━早く早く早く早く…!


焦ってももがいてもまだ魔力は溜まりきらない。練り上がらない。


逆に焦りから集中を欠いて詠唱はどんどんと遅くなっていく。


「終わりだねぇ女。さよならだねぇ。」


魔力の塊はメイジの手から離れた。塊は暗雲に変わり雷となる。


轟音と共に一撃、二撃。駆ける稲妻が地面を砕き魔導士に近づき迫る。


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