この美しき世界で
「ちょ…。」


彼が突きつけたのは野宿の時に使う二本の小さなナイフだがその威圧感たるや並大抵ではない。


それはもう動けば容赦なく貫く、ナイフに語りかけられているような錯覚を覚えるほどに。


「か、勘弁…。」


取り巻きはその両腕を頭に乗せて服従のポーズを決めていた。そしてナツはというと。


「こんの筋肉!こんの筋肉がっ!何回目だと思ってんだこの筋肉がっ!」

「うばっ!?げへっ!!ぶひぃっ!!」


背中から落ちて身動きの取れない男にありったけの暴言と蹴りを浴びせ掛けていた。


その顔が非常に晴れやかなのはストレス解消を行っているとみても差し支えはないのかもしれない。


しかし笑いながら蹴りを浴びせるのは如何なものだろう。見る人間が見ればそういう人種の勘違いするだろう。


それほど最近の彼はストレスを溜めこんでいた。


「もうやめ…!ごべんなざいがふっ!?」


しかしその彼の行動は一人の男によって止められることになる。


「若造。事情は知らんが、ちとやり過ぎじゃねぇか。それ以上は俺が相手になんぜ。」


髭を生やした中年の、これまた筋肉隆々の男の手によって。


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