この美しき世界で
「…ほう。」


その動きはまさに近接格闘のそれだ。二人の争いを遠目に、セロは思わず感嘆の息を漏らす。


スウェイと呼ばれる回避技術。それに合わせた


「がっ―!」


正確なカウンター技術。軸足を刈り取りナツを地に伏せさせる。


しこたまに背中を打ちつけた彼は痛みに顔を歪めた。


「やろ…ぐぶぇっ!?」


そこにさらにとどめの一撃。有無を言わさず右足でナツの腹部を踏みつけ動きを制する。


「どうだい若造。俺は強いだろう?」


強者の余裕か、意識を失いかけたナツに笑いかける男。


「ああ、まったくだ。」


その喉元に白刃が突きつけられているにも関わらず。


「悪いがそこまでだ。大事な仲間なんでね。傷物にされちゃ困る。」


皮膚に食い込む程に近づく刃。


「仕掛けてきたのはあんたら坑夫共だ。卑怯とは言わせない。」


それでも無頼な態度は崩れない。ナツを踏みつけたままに男は深い溜め息をつく。


「言わんよ。だが若造。刃は突きつけるなら振りぬけ…よ!」


ナツを踏み台にバックステップ。瞬く間に刃から抜け出す男。


「ぐえっ…!」


その先にあったのは爆音。そして


「卑怯とは、言わないのよね?」


満面の笑みで小規模爆発魔法を唱えたシンシアの姿だった。



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