この美しき世界で
「ただいま母さん。」


家に帰ったセロは部屋の灯りをつけると母親に向かって挨拶をした。


といってもそこには女物のブローチが置いてあるだけで誰もいないのだが。


彼の母親は彼が幼い頃に病に倒れ亡くなっている。唯一の肉親である父親は『プロス』にいる為、彼は一人で暮らしていた。


「飯飯っと。」


袋からパンと干し肉を取り出し、スープを器によそると彼はそれにかじりつく。


寂しくはなかった。友人は少なくなかったし町の人も優しかった。


このスープだって近所のおばさんが作ってくれたものだ。


訓練が終わり、友人と語り、夕飯を食べて眠りにつく。


たわいもないことが幸せに感じられた。


幸せな毎日が続けばいいと毎日願った。


だがそれは、余りにも突然崩れていった。


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