SOUND・BOND
ステージ1

1-Ⅰ

街中には、夜を楽しもうと言わんばかりにいくつもの飲食店の明かりが会社帰りの大人たちを誘う。その中には、勉学という道から外れた20歳未満の少年たちも混ざって遊びを楽しんでいる。

そこから少し離れた街灯もまばらな土地に、一軒の古めかしい建物がポツリと佇(タタズ)んでいた。

入り口には【Le soir】(ル ソワール)と洒落(シャレ)た名前の、これまた木目のくっきり映える今風の和といった感じの看板が質素に掲げられている。

そういったことに無関心であればただのぼろっちい看板と思うかもしれない。それはもちろん本当にぼろいわけではない。そういったデザインの看板だ。いかにも年期が入ってますと言いたげなそれは、ご期待通りに目を引く雰囲気をかもし出していた。それはただ周りに似通った店が無いからとも言えるのだろうが。

そんな静かで思いのほか人通りの少ない場所に、一台の大型バイクが静寂を裂く様にエンジン音を響かせながら滑り込み、ルソワールのまん前の路上の隅で唸り声は止んだ。

ここは古い商店街で今では殆ど車の行き来も少ないため暫(シバラ)く停めていても文句を言う者は誰一人いないのだ。

カワサキZZR1200、スーパースポーツバイク、通称SS。ハンドルが低く、前傾姿勢で乗るタイプのそれから降りたのは、背中に(下が丸みをおびた幅も広く、上にいく途中から括れて長細くなった)ソフトケースを背負った長身の青年。バイクと同じ色の黒いヘルメットを脱ぎ去りシートへ無造作に置く。

今まで押さえつけられていた髪はやっと自由になり、柔らかく吹き寄せる冷たい風によって散らばり、外気を含んだことでふっくらと開放され元の髪に戻る。

前髪を頬の辺りで揺らし、裾(スソ)の方が乱雑に切られたその靡(ナビ)く髪は、ほんの僅かな街灯やたまたま通った一台の車のライトによって赤く映し出された。しかしそれは化学で作り出される光りのせいで映った色などではなかった。

極稀(ゴクマレ)に両親や親戚といった血縁ではなく、その上、祖父母辺りから先祖に当たる者に他国の人間や珍しい体質者がいた場合、それとそっくりなDNAを持って生まれてくるケースがある。

彼、甲斐澤陸燈(かいざわりくと)がまさにそれだった。


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