SOUND・BOND
3-Ⅱ
マンションからバイクを走らせて10分ほど。
中央に噴水があり、夜でもそれなりに人が訪れる広場。ただ通り過ぎるだけのサラリーマンや、立ち寄ってデートを楽しむカップルの姿などさまざま見受けられる。
それがいつもの日常。
いつもの光景。
当たり前の現状……であるはずだった。
「お兄ちゃん、今日何かあるの?」
直ぐ後ろで真空が呟くように質問する。
その目は広場の噴水、というよりもその前に集る人間の群れに向けられていた。
「いや、何も無いはずだけどな……」
ヘルメットを外して、陸燈は端整な眉を寄せて、自分にも問いかけるように答える。
ルソワールから一度帰宅して、エレキギターからアコースティックギターに換えて再び外へ出てきたところだ。
真空のためにストリートライブをと考えて、いつものこの広場に来てみたのだが、人口密度が違う。
ここは静かでゆっくりできて、人もまばらだから気軽に演奏もできる絶好の場所。
(だよなあ……?)
あまりの人垣に陸燈は目を丸くした。
深夜にイベントを開くような場所でもなければ、近所の住人が集まる程度の小さな広場だ。
「ここで弾くの?」
「まあ、他に場所も無いしな。いつもの階段は無理でも、こっち側なら問題ないだろう」
SSから降りながら陸燈は足元を指差す。
噴水の周りに出来た人垣は、その奥にあるいつも演奏している5段ほどの階段を中心に集まっていた。