SOUND・BOND
真空は陸燈の前まで来ると、自分の指定席であるかのように、陸燈から少し間隔をあけて、後ろへ手を回すと、スカートの裾が皺にならないようにそのままずらしてきて太股辺りで腕を組んで膝を立てて座った。
それはスカートの中が見えないようにと、恥じらいも兼ねての体勢だろう。
陸燈はそれを微笑ましく見つめた。
「あ……」
自分がこんな親父のような考えを起こしていることに、ついつい言葉を漏らして額に手を当てた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
真空は首を傾げる。
「変なお兄ちゃん」
(ごもっともです……)
陸燈は自分の考えを真空に探られないうちに、体を前へ折ってアコギのハードケースを足元に置くと、留金を持ち上げてケースからギターを取り出した。
ここには外灯がひとつ、陸燈を中心にして光りがおとされている。茜色に輝く髪も周りの暗さから落ち着いて見える。
もちろん噴水の方が明るすぎて、こっちなんか掠れて見えることだろう。
静かに弾きたい陸燈には、それはかえって有り難かった。
「それじゃあ一発目から、真空のために用意した曲を――」
足を組みギターを構えると、ジャランと弦に滑らかな指を滑らせ、
「勇気をくれた君へ」
と、真空に語りかけるように曲のタイトルを静かに口にした。
そして流れるように指を動かし、それに答えるかのようにギターの音色が心地よく広場に浸透していく。
ゆっくり。
清音に。
音のひとつひとつに陸燈の気持ちが込められていく。それを、見上げて楽しげに聴く真空は感じてくれているだろうか……。