SOUND・BOND

いつもよりも周りの声や音が耳につくはずなのだが、今は自分の音だけを拾って演奏を楽しむ。
 
真空にもきっとこの気持ちを分かってくれているのだろう。
 
笑みを向けると、少女も微笑み返してくれる。
 
とても大切な君だけに贈るメロディー。
 
この瞬間が陸燈は好きだ。
 
そして歌も入ると、真空は一層顔を輝かせた。
 
待ち望んでいてくれたことが分かってこっちも嬉しく思う。
 
陸燈の歌声とギターの音色が重なり合って、また神秘性が生まれた。
 
すぐの歩道を歩く人が、広場を横切る際に一瞬動きを止めていく。
 
それに釣られるかのように、なんだ?なんだ?と様子を覗く者まで出てくる。そうやって立ち止まる人が増えると賑わいも増す。
 
一曲目が終わって気付くと陸燈の周りには、向こうの人垣ほどまでとはいかないが、それなりに客が集まって来ていた。


「はあ……」


これくらいならいつもと変わらないだろう。


「お兄ちゃん!凄い!」
 

陸燈の安堵の溜め息を打ち消すかのように、目の前で拍手が鳴った。
 
真空の小さな手がパチパチと可愛らしい音を立てる。
 
スカートの裾を押さえることを忘れて、少女は精一杯の歓声を送ってくれた。
 
幸い下は影になっていて、それの中までは見えないようだった。


「サンキュ。それじゃあ2曲目な」
 

今度はピックを取り出して奏でる。
 
集まってきている客も、静かに耳を傾けていてくれる。
 
そう思って安心したのも束の間――


「ねえねえ、あれあれ!」

「何?」

「うっそ~?!」
 

なんだか噴水の方が騒がしい。
 
さっきまでもそれなりに雑音めいていたが、急にレベルがアップした。
 
なにやら……


(嫌な予感がする……)
 

演奏しながらも、陸燈は眉を顰めた。


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