SOUND・BOND
一体どこからここでライブをするということが漏れたのか、陸燈には想像もつかない。
広場の周りは住宅街。この辺りの人間なら知っていて当然かもしれないが……。
(しかし、多すぎる……)
ルソワールからこの広場まではかなりの距離があるはずだ。
わざわざここまで来る根性には素直に感服する。
「りくと~!弾いてぇ~」
「きゃ~っ!最高~!」
「あとで握手して~!」
まるでアイドル扱いだ。
きゃあきゃあ騒ぐわ、おかしなシャッター音は鳴り捲るわで。
何度も言うが、ここは深夜の住宅街。
近所迷惑にもほどがある。
それでも、この根源(コンゲン)は自分にあることに、陸燈はしっかり気付いていた。
陸燈はそんな自分の在りようとこの現状にイライラを募らせていたが、それをグッと抑えて口を開く。
「静かにしてください。ここはライブハウスじゃないんですよ」
敬語を使いながらも、声には棘がある。
多少冷たい言い方をしたが、これで引いてくれるだろうと思う陸燈は甘かった。
周りのファンには、そんな陸燈の物言いもひとつの魅力であると、女心を擽ったのだ。
「やっぱりイイっ」
「かっこい~!」
「みんな、陸燈が困ってるよ!静かにしよ?」
「うんうん!そうだね」
なんだかんだで静かにはなってきたが、陸燈にはどこか癇に障る部分があった。
「俺、なめられてるのか?」
隣に座る真空にだけ聞こえる声で陸燈は呟く。
「違うよ。きっと、たぶん……」
段々自信がなくなってきているぞと、陸燈は真空を横目で見る。
まあ、この愛しい妹が弾いてというのなら、拒む理由はどこにもない。
休憩していた手を再び働かせる。
そわそわする周囲に反して、陸燈の場の空気は静寂なものになる。
ところどころから、心惹(ヒ)かれるものに浸(ヒタ)る、甘い溜め息が漏れ出す。
彼の静かな佇(タタズ)まいは、誰の目にも優美に映った。