SOUND・BOND


タイトルが4曲目に変わろうとした時だった。

冷たい雫が陸燈の手の甲に落ちてきた。
 
ふと見上げると、今度は頬を濡らす。


「やばいな。本降りになりそうだ」

「帰る?」
 

真空が横から顔を覗かせて尋ねる。


「そうだな……」
 

ギターも濡らすわけにもいかないし、なによりバイクで来ているため、ずぶ濡れになる前に引き揚げた方がよさそうだ。


「私たちもホテルに戻る?」

「そうだね。陸燈にも会えたし、明日には帰らなきゃだしね」

「あぁあ~。すっごく残念」
 

この会話から察するに、どうやら地元人だけでなく観光客も混じっているようだ。と陸燈は思うが、それが陸燈の為だけに訪れていたなんてことは当然思い当たるはずもない。
 
雨が降ってきたことで、女性客があっという間に消えていく。
 
名残惜しい言葉も漏らしながらも引き揚げていく中には、握手を迫ってきて満足して帰る人も少なくはなかった。
 
たくさんの人に手を握られた陸燈は、しばし唖然としていた。


「大丈夫?」

「あ、ああ……。俺ってそんなに人気あったのか?」

「お兄ちゃん、今更?」
 

いつもは陸燈が役目のはずの溜め息を真空が漏らして、陸燈はギョッとする。


「お兄ちゃん、今日は驚いてばっかりだね」
 

真空は楽しそうに笑う。
 
他人には心を開かず、氷のように冷たく接する。それが甲斐澤陸燈で間違いは無い。
 
しかし、真空にだけはいろんな顔を見せてしまう自分。それもまた本物で……。


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