SOUND・BOND

とても気持ちの安らぐ場所。
 
本当に――


「真空がいてくれて良かったよ」
 

まだ笑いの止まない妹に呟く。


「え?なんて?」
 

自分の笑い声で聞き取れなかったと思っているのだろう。陸燈自身、独り言で言ったようなものだから、聞いてくれていなかったことは気にも病まない。


「なんでもないよっ」
 

言いながら弾みをつけて立ち上がり、しゃがんでギターをケースに戻す作業を進める。
 
斜め後ろで真空は宙に浮いた足をぶらぶら動かしている。それをなんとなく気配で感じながら陸燈は背を向けていると、その空気がぴたりと止まった。


「……真空?」
 

ギターケースの留金をかけて、少しの間のあと首だけで振り向くと、案の定静止している真空が目に入った。
 
少女の目はこっちを見ていない。


「いい演奏だったな」
 

突然かけられた男の声。
 
陸燈は素早く視線を巡らす。
 
丁度噴水の前。人影がふたつ並んでこっちに歩み寄ってくるところだった。
 
真空の視線もそこに向けられていたことに気付く。
 
言ったのは向かって右側に立つ、少し伏せ目がちで顔のパーツが綺麗におさまり整った顔立ちの男。


「真空ちゃん、また会えたね」
 

並んで歩く、きつい目つきの男が、イメージと少し違った雰囲気の言葉を投げかけてくる。


< 107 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop