SOUND・BOND

陸燈の心の拠所である真空。それを今握っているのが秋司だ。しかも手を繋ぐというリアリティーも万全。
 
それに気付いたのであろう薫季が、隣で吹き出した。


「あははは。陸燈は気付くの早いなあ。鋭いよ」
 

あれだけ堂々と歩かれたら嫌でも気付くだろう。
 
なんだか面白くなくて顔を顰める。


「安心した」
 

隣から唐突に吐き出された言葉に、陸燈は彼を見る。


「最初ルソワールで見た時は、こいつ他人に無関心なのかって思ったけど。なんだ、感情豊かじゃん。それに人のこと良く観察してるし」
 

バイクを押しながらだから彼の顔を少し下から見るような姿勢で、陸燈は目を見開いた。
 
水溜りの出来始めているところを、気付かずに歩き続ける。
 
車道を通過する車のライトが、鼻筋の通った端整な薫季の横顔を照らす。
 
陸燈は彼から視線を逸らすと、おもむろにSSのグリップを握る手に力を入れる。
 
その表情はもう驚きの顔ではなくなっていた。
 
確かに、今までは人の目を気にしながら生きてきた傾向があった。この外見だから、外ではなめられないように心を閉ざして振る舞い、それを真空にまで気を遣わせてしまっていたことに最近気付いたばかりだ。
 
それを、こんな初対面の可笑しな連中にまで見抜かれるなんて思ってもみなかった。
 
少し――


(調子が狂う……)


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