SOUND・BOND

3-Ⅲ




「真空ちゃん、好きなもの注文していいよ」
 

普段あまり外食をしないから分からないが、薫季が言うとおりこの時間帯は客の入りが少ない方なのだろうと店内を見て陸燈も思った。
 
入ってすぐに点々と座る客の注目を浴びたが、それは静かな店内に多人数で入ってきたばかりではないだろう。
 
5人が座ってもまだ少しゆとりのある席を秋司が選び、入った順に奥から詰めていく。

そのため自動的に真空は秋司の隣になり、彼からメニュー表を見せられながら、カラフルに彩られたデザートの数々の写真を真空は嬉しそうに眺めている。
 
当然、陸燈も真空の右隣に座った。少女が誰にも悟られないように手招きしたのも理由だ。


「本当に何でもいいの?」

「うん、いいよ」
 

クリーム色のテーブルに頬杖を突いた秋司が真空に笑みを向けて言う。その向かいに座る光も、少女の眺めるメニューを一緒に覗き込んでいる。
 
綺麗に拭かれたテーブルの上に、雨の重みを感じた茜色の髪から水滴がひとつ零れ落ちた。

濡れたそれは、一層赤く艶が出ていて綺麗なのだろうが、昼間の明るさ日の光でない今は、その艶も発揮されないでいる。
 
陸燈はそうだったと、持ってきていたハンドタオルで前髪そして頭の上から下へと酸性雨を染み込ませる作業を素早く行ってから、隣に座る、ツインテールの黒髪にも、タオルを裏返してあてがった。
 
自分ほど濡れてはいないが、風邪をひいてはいけないとさっきの作業よりも念入りにタオルを動かした。
 
真空は嫌がることなく大人しく拭かれている。その視線はもちろんデザートの写真だ。
 
時折大人びた言動を見せるが、やはりまだ9歳の少女だと思うと、陸燈は口元を僅かに持ち上げた。


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