SOUND・BOND
「……どうも」
陸燈は一言だけ投げかけてやり、視線を真空に戻して中断していた手を再び動かした。
いつも都合を合わせて聴きに来ていてくれたことが嬉しい。どんなところが良くてファンになってくれたのか、色々聞きたい気もする。
それでも彼はやはり他人で、正直この外見をどう思っているのか知れない。真空のことだって―― だからどうしても一線引いてしまう。
素っ気無い反応の陸燈を見て、向かいに座る薫季が慌てて話を繋いだ。
「あっ、気にしないでくれよ?彼、根はいい奴なんだけど、思っていることをはっきり表に出すのが苦手なんだ」
これからもファンでいてやってくれと付け足して。
今日初めて会って少し会話しただけの彼が、どうしてそこまで言い切れるのか――
ふと視線をそそいでいたら彼の短い髪もしっとり濡れていることが気になった。陸燈は拭き終わったタオルを、ぎこちなく薫季に差し出してやる。
なぜ自分がこんなことをしているのか分からない。ただ、彼を見ていたら勝手に体が動いただけだ。
「ほらね?」
薫季は少しも驚かずにタオルを受け取ると、困惑気味のウエイターにそれを軽く持ち上げて目配(メクバ)せした。
「やっぱり陸燈はいいお兄ちゃんだな」
奥から秋司が言う。あくまでもそれは真空に投げかけた言葉だった。
「うん!カッコいいでしょ~♪」
それを満面の笑みで自慢げに話す真空。
(カッコいい?)
陸燈には少し視点がずれているように思えたが、それは外見だけではなく、陸燈自身が持つ考え方や心のあり方全てをひっくるめた意味が込められている。
どんなに秀才な頭脳を持っていても、自分に無頓着である以上その本質にはなかなか気付けない。