SOUND・BOND

親友の呼びかけに気付いたのは、その曲が終わってからのことだった。


「お前、かなり惚れただろ」


秋司の言葉は直ぐには理解できなかった。そんなことにはお構いなしに親友は更に迫ってくる。いつも落ち着いたイメージを持つ秋司が、こうも変わってしまったのはやはりバンドに夢を懸けているから。


「このバンドは過酷な現実を信頼できる仲間と乗り越えてきたんだ。だから今ここに立ってる!凄いだろ?特にベースが最高さ!俺は彼みたいなべーシストになる」


そう言い切った親友の、憧れを見つめる横顔は、どんなプロのミュージシャンよりも輝いているように感じた。

彼を尊敬の眼差しで見ていたら、ふっと振り向き急に目が合い唐突に秋司は言った。


「バンド、一緒にやろうぜ」


その言葉のあと、彼は満面の笑みを浮かべた。何がそんなに嬉しいのか一瞬不思議に思ったが、薫季は考える前に自分が頷いていたことに気付いた。それを今更拒むことはできない。寧(ムシ)ろ薫季にはその必要もなかった。


(やってみるのも悪くはないか……)


秋司の言うとおり、バンドという世界に惚れ込んでしまったのだ。

それに、これで親友の嬉しそうな笑みを壊さずに済む――


「俺が入るんだ、あのベースより上手くなんなきゃ駄目だぜ?」


少しは反撃しないとこの時の秋司は暴走しそうで怖かった。

だが、そんなプレッシャーなど彼には通用しなかった。いつもの落ち着いた声で、


「ああ、分かってる。いつか必ず越えるさ。でも今は彼が目標なんだ」


その言葉で薫季は、彼の夢にかける信念の大きさを図り間違えていることに気付いた。大きすぎる親友の思いにプレッシャーをかけられたのは薫季の方だった。


この頃からだ。憧れのべーシストにちなんで凪秋司の愛称がAKIになったのは――


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