SOUND・BOND
「そんなに深刻な話じゃないよ。まあ、君には飽きがきている話題だとは思うけどな」
鋭い視線を読み取ったのか、彼は光に向けたものとは違った苦笑を浮べた。
彼の向かいでは、お皿とフォークの触れる音を立てながら甘いケーキを堪能する光の姿がある。まるっきり真空とかぶり、これでは年下に見られても文句は言えまい。
そんな少年は放置して、秋司は絡めていた指を解くとほんのり湯気の立つコーヒーカップへ手を伸ばす。
ガムシロップとミルクが使われないまま小さな籠に置かれているところを見ると、ブラックを好んでいるようだ。これもさまになり過ぎている。
「それじゃあ始めますか」
ひと口それを含んでから秋司は切り出す。
「タキが言ったとおり、俺たちは函館から出てきたばかりで、バンドとしての活動もまだ機能していない。するもなにも、メンバーが足りなくて出来ないと言った方が正しいけど。それでも慌てて他人を引き入れても、プロになれるかどうかは別問題だ。実際実力が無いと難しい世界だ」
「あんたたちは実力あるのか?」
汗のかいたレモンスカッシュのグラスを握りながら陸燈は視線を上げて問う。
その試すような視線に秋司は真っ向から対峙してくる。
「もちろん。プロにも劣らない、と俺たちは思ってる」
それに薫季が深く頷いたのを、見ずとも気配で感じられた。
実際、彼らの演奏を聴いたことの無い陸燈には、それが真実だという確信というものを得られず納得は出来ない。