SOUND・BOND
元々秋司は一人でベースを始めて、あるバンドが丁度ベースが抜けたからということでそこに秋司が加わった4人で活動をしていた。
あのライブ後。薫季もそのバンドに入ることになったのだが、正直まだ自分が音楽など出来るだろうかと不安を抱えていたのも確かで…。
薫季はあまり手先が器用な方ではないと自分でも分かってはいたが、入ったバンドはギターがもう一人欲しいということでなんとか頑張ってギターに馴染もうと努力した。
だが、なかなかメンバーのレベルについていくことが出来ず、指にも血が滲んで限界がきていたため腐れ縁の秋司に相談した。
「これじゃあみんなの足を引っ張るだけだ……。俺は抜けた方がいいんじゃないかって思う」
仲間に言われて止めるより、自分から言って止めた方が疵付かずに済むし、仲間もきっと言い出せずに困っているだろうから丁度いい。
そう思って切り出したのだが、秋司は意外なことを口にした。本当にこの時は驚いた。
彼は、薫季がそう言ってくるのを予期していたのか驚いた様子も無く、逆に笑みまで浮かべてある提案を持ちかけてきたのだ。
「お前って普段喋る時もいい声してるよな。前々から思ってたんだけど、ボーカルはどうだ?」
「俺が歌?!」
秋司の突然の提案につい叫んでしまい、慌てて口を塞いだ。だが、それでさえ彼は、
「いい声だ」
と言ってまた嬉しそうに笑ったのだ。