SOUND・BOND
3-Ⅴ
「真空?もうすぐ着くからな」
バンド仲間と別れて、バイクをとばし、見慣れた高級マンションに戻ってきたのは丁度1時15分頃だった。
「ほら、靴脱いで。甘いもの食べたからしっかり歯を磨いてから寝るんだぞ」
玄関に入るなり、覚束無い(おぼつかない)足取りの真空から返事はなかったものの、こちらの話は聞いていたらしく、すぐ脇にあるバスルームと繋がっている洗面所へ入っていく。
真空は眠気が限界にきているようで、欠伸を連発していた。
その姿を見届けてから陸燈はリビングへ上がった。
暗い部屋に明かりが点く。いつもより温かさを感じるのはこの電気の灯った明るい部屋のせいばかりではあるまい。
その理由は陸燈自身が良く分かっていた。
「お兄ちゃ~ん。もう寝るね~」
真空は陸燈の座るソファまで来ると、後ろから声をかけてくる。それを振り返ると、歯を磨いたお陰で少し目が覚めてしまったのか、虚(ウツ)ろだった目がさっきよりもしっかり物を捉えていた。
「ちゃんと着替えて寝ろよ?」
「は~い。お兄ちゃんはまだ寝ないの?」
「ああ、もう少ししたら寝るよ。先に寝な」
先に視線を逸らした陸燈は、一向に立ち去る様子を見せない真空の気配に、再び振り向く。
「どうした?」
「なんだかお兄ちゃん、楽しそう♪」
可愛い笑顔を向けられて、陸燈は目を丸くした。もちろんその笑顔だけに目を丸くしたのではない。この笑顔の中に幸せという温かさが含まれていることに気付いたからだった。
「陸燈お兄ちゃん、前よりカッコよくなったね」
それを最後に言い置いて、真空はぱたぱたと自分の部屋に駆けて行った。忘れていたが、どうやら足の具合はすっかり良くなっているようだ。