SOUND・BOND

今のバンドが最終だったらしく、押し寄せていた客は一気にはけていき、ライブハウスは嵐が過ぎ去った後のように、静かな穴倉にすり替わった。

そこに薫季と秋司は入ってきた位置から一歩も動かず物思いに耽っていた。

薫季は才能と実力のあるあのドラムがどうしても忘れられず、自分のことのようにどこか歯痒い気持ちでいっぱいだった。

それはもちろん秋司も同じ。


「ガンガン響いてきたんだよな。たとえ注目されてなくても、彼は自分なりに楽しんでたんだ」


これからバンドのメンバーを探さなければ先に進めない薫季たちにとって、あの少年の出現は大きな足掛かりとなったことは間違いなかった。


「あいつ、メンバーに引き込もう!」


秋司の提案に薫季は大きく頷いた。きっと自分たちなら彼の鋭い音を上手く乗せ、響かせてやれる。そんな自信がこの時の薫季には十分あった。

ライブハウスを出ると冷たい雨が地面を濡らしていた。都会は昼間でも夜でも静かな時間は無いに等しい。それでもここはまだ都心から少し外れているためそれ程でもないし、今は雨のお陰で耳障りな街の音も少しは和らいでくれている。

函館に比べればここは雨天でも暖かい、とはいえ、まだ3月。髪に触れて滴り落ちる雨は冬の名残が混ざり込んでいるようで冷たい。


「やっぱり中で待ってた方が良かったかなぁ?」

「いんや、多分裏口から出て来るだろうから、中で待ってたんじゃ会えないと思うぜ」


午後から崩れるだろうと天気予報で告げていたのを信じて、折り畳み傘を鞄の上の方に忍ばせておいて正解だった。

薫季は彼に会えるかどうか心配しながらそれを開き、取り敢えず冷たい雨をしのぐ。


「あんたら。こんなところで何してんの?」

(?!)

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