SOUND・BOND


「何って、バンドの勧誘を……」

「そうじゃなくてさぁ。学生とか卒業とか」


彼の方こそ何を今更言っているのだろう。160あるか無いかの身長に童顔に近い小顔。どっからどう見ても中学生にしか見えない。


「まさか、あんたらまで勘違いしてるんじゃないだろうねぇ?って言うか、ぶっちゃけしてる?」


冷たく怒っている、いや、呆れている顔で彼は見上げてくる。大きな目も今は半分ほど伏せられている。

そしてついに溜め息まで漏れた。彼は入り口から完全に出て、手にする傘を差して薫季たちの横を通って歩道に出た。


それを薫季と秋司は目で追った。


「それじゃあ、自己紹介でもしようか」


と、おもむろに話し出す。


「僕は真爪光(まづめこう)。今は北海道の函館に住む19歳でフリーター。今は実家のある東京で友達のライブに出させてもらってる。因みに何処のバンドにも入ってはいないよ。なかなか僕に合うバンドに逢えなくてね。仕方ないから個人でいろんなとこに出てんだよ。それで?他に勘違いしていることは?ああ!僕、男だからね」


いや、そこまで勘違いはしていない。と突っ込みを入れることすら忘れて放心状態になってしまった。


絶対嘘だ!詐欺だ!自分たちより年上であるはずがない!映画館、改札口は絶対に子ども料金でパスされるはずだ!デパートの前を通ればウサギの着ぐるみを着たおっさんが赤い風船なんかくれちゃったりするんだ!

と、だんだん子どもに戻りつつある妄想に結び付いてしまうのははっきり言って失礼だが、彼を見ているとそれも仕方がないように思えてくる。


「そう……だったんですか……」

「いや、いきなり敬語になられてもね……」


鳩が豆鉄砲くらったような薫季の顔に、光は思いっきり笑い出した。

それはやはり子どものような笑い声で、こっちまで可笑しくなってきてしまった。

さっきまでの冷めた目も今では元の形のいい可愛らしい目に戻ってくれていた。



これが現在のバンドのメンバー、ドラムの光との出逢いだ。


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